一般にAC/DCコンバータは、小型化を進めながら年々効率が向上し、電子機器の小型化に対するすべてのトレンドに沿うようになってきています。基板実装型のAC/DCコンバータも同じように進んでいますが、安全や熱損失のようないくつかの規格においては、サイズ削減や電力密度の増加が問題となっています。
実際の設計の制限
サイズ削減における実際上の制限は、IT/メディア用EN 62368-1や家電用のEN 60335-1といった規格に基づく安全のための最低限の絶縁で、250VACシステムでは最低9mmの入力と出力間の空間および4mmの絶縁沿面距離が要求されます。これは、最悪の汚染度と材料グループに対するもので、封止デバイス、コーティングされたPCB、高トラッキング指数(CTI)材料については緩和されます。しかし、その安全のための規定沿面距離は、幅が25mm程しかないコンバータには実際上使えないことがわかります。したがって、規格認証を完全に利用するにはPCBに溝を切ったり、クリティカルな部品にセパレータやキャップを追加したりすることで、規定距離の最小要求値を確保する慎重な設計が必要です。
トランスにおいても、沿面距離と空間距離の要求は問題になります。高電力でサイズが大きいトランスは、一次側から二次側巻線への標準沿面距離6mmを保証するために、中にテープによってマージンを設けて標準的なエナメル線巻線を用いることができます。低電力用はボビンの巻線幅がわずか数ミリメートルで、これは明らかに要求に対応できません。解決策の1つは、どのポイントにおいても3つの層により絶縁が保証される、螺旋状に被膜が重なり合う安全規格の「三層絶縁線(TIW)」を使用することです。EMIスクリーンを形成することもまた問題になりますが、一方の端が終端されないTIWのハーフターン層を使ったいくつかの設計では丁寧な絶縁ができます。
入力の大容量蓄電コンデンサも、小型化を阻害する部品の1つです。DCバス電圧の平滑化とAC主電源が途切れ遮断された間の電圧保持エネルギーを供給します。標準的な業務用機器は、115VACまたは230VACの公称入力電圧から、20ms(50Hz主電源の1サイクル)間動作を保持することが要求されます。入力コンデンサが受ける電圧は115VACの例では平均約150Vで、それに20Vの主電源周波数のリップル電圧がともないます。主電源が遮断された場合には、そのコンデンサが放電し、コンバータは低下する電源で20msの間動作を維持する必要があります。実際に、効率75%、5W出力のコンバータの例では約70Vに低下するまで動作可能で、20msの間に必要なエネルギーによるコンデンサのエネルギー損失は以下の式で表すことができます。
式1
この式から18µFのコンデンサが必要で、最大のAC入力に対して定格は400Vのものが必要です。最小なのはアルミ電解コンデンサで高温対応品の選択では約3cm3です。経験則から、多くのフライバック回路において20msの保持時間を得るには、入力範囲が広い場合は最低2µF/Wが必要で、230Vの公称入力であれば1µF/Wが妥当です。これより静電容量が少ないとリップル電圧が大きくなる問題が生じ、電圧が余裕が減少し1サイクルの主電源遮断で出力電圧に落ち込みが生じます。
基板実装型AC/DCコンバータは、高電力製品に近いレベルの導通EMIを発生します。それは、コモンモードノイズが電力の大きさに直接比例しないからで、どの設計にも存在する寄生容量により結合する内部の高いdV/dtにより主に生成されるからです。したがって、単純で低電力な設計においても、ノイズ放射規格に適合するにはコンバータ自体より大きなEMIフィルタが必要になる可能性があります。コントロールICの設計者は、共振または準共振トポロジーによるdV/dtの制御や、規格測定受信機の帯域幅に現れる平均EMIを削減する「周波数ディザリンク」のような技術によって、この問題に取り組んでいます。基板実装型AC/DCコンバータは多くの場合一次側グランド接続がない「クラスⅡ」デバイスですが、コモンモード導通ノイズの経路が提供されている実際のアプリケーションでは、その出力はたいていの場合グランド接続がなされています。一次側と二次側間のYコンデンサは高周波干渉を低減しますが、出力がグランド接続されていない場合の効果は高くなく、危険なAC接触電流を使用者に流す可能性があります。いくつかの家電関連規格では(例:EN 60335)非常に低い静電容量と、1つが故障したときのために2つのYコンデンサを直列接続することが要求されています。2つのコンデンサの設置に関しては、それぞれが小型パッケージの中で完全に安全な沿面距離を端子間で確保することが非常に困難で、多くの場合外付けにしてEMC規格に適合しています。
モジュラーソリューション
RECOM[1]は、小型サイズで、産業グレード規格の低コスト基板実装型AC/DCの設計に挑戦しているメーカーです。製品は1W~30Wで、すべてが少なくても85VAC~264VACで動作します。305VAC対応の5W製品、RA05-K/480は最大525Vで動作します。最大標高5000m対応、動作温度範囲-40℃~+90℃(ディレーティング要)の製品も用意されています。新製品の3W品のサイズは業界をリードする22.5mm×27.94mm×18mmで、20W品でもわずか25.4mm×50.8mm×23mmです。標準の平面壁実装用で独自の円形実装パッケージの3W、18W、30W品があり、3W品はわずか11mmの超低背を特長としています。このラインアップの全製品はEN 60950、EN 62368 ITE安全認証、ほとんどがEN 60335家電認証、また、18Wと30Wの円形タイプは医療認証を取得しており、ワイヤ接続タイプも用意されています。図4はこのラインアップのサマリです。
図4:RECOMの基板実装型AC/DCコンバータ製品のラインアップ