コンバータノイズフィルタのインダクタ指定について

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反射リップル電流と出力ノイズを低減し、EMCの放射と感受性制限を満たすために、一般的にインダクタ と コンデンサを組み合わせたフィルタがスイッチモードコンバータの入力部と出力部に追加されます。コンバータメーカは時に推奨フィルタインダクタ値を指定しますが、同じ仕様の部品でも、全周波数域にわたる性能はメーカによって大きく異なることがあるため、伝導・放射干渉が増加し悪い結果を招くことがあります。この記事では、インダクタ性能の変動について調べます。

近年のほとんどのコンバータ、特に全ての絶縁型DC/DCコンバータは‘スイッチモード’タイプで、外部のDC電圧を高周波で’切断’し内部絶縁トランス用のAC電圧に変換します。トランスのAC出力は、デューティ・サイクル制御により規則正しく高効率かつ低損失でDCに整流されます。短所としては、スイッチングプロセスによって、他の機器に悪影響を与える可能性がある伝導ノイズスパイクおよび放射ノイズスパイクとともに、入力および出力に高周波リップルが発生することです。効率向上のためコンバータはより速いスルーレート、より高い周波数で動作する傾向がありますが、結果として生じるノイズスペクトラムは非常に広くなります。

LCフィルタによる出力ノイズ低減
どの市販コンバータも、リップルとノイズを標準ピークツーピーク値(DC出力の約1%)まで低減するために、内部で最小限のフィルタ処理を行います。ほとんどの場合これで問題ありませんが、敏感なアプリケーションで更に低いレベルが必要な場合は、簡単な解決策として外部LCフィルタを追加します(図1)。


図 1: 外部LCフィルタによるスイッチモード電源の出力リップルとノイズの低減

インダクタのインピーダンスは理論的にはDCでゼロになり、コンデンサのインピーダンスは無限大になるため、目的のDCは影響を受けません。しかし周波数が高くなると、インダクタのインピーダンスZLの増加、コンデンサのインピーダンスZCの減少により‘分圧器‘効果が増加します。フィルタのコーナー周波数はコンバータのスイッチング周波数でリップルを減らすように選択されていますが、最大数十MHzの周波数スペクトラムを含むノイズスパイクの減衰を予測することはより困難です。

これは、ある周波数でZLとZCの値が等しくなるとLCネットワークが‘共振‘し、ノイズが減衰するのではなく増幅される可能性があるためです。ただし、この影響は負荷抵抗によって軽減されます。共振領域より上ではまだいくらかのノイズ減衰がありますが、他の寄生効果が発生し始めます。例えば、インダクタの自己容量は、はるかに高い周波数で別の共振を生じます。この容量はまた、ノイズがインダクタを‘迂回する‘ことを可能にする傾向があります。より高い周波数では、‘表皮効果‘によりインダクタのコア損失が増加し、インダクタワイヤのAC抵抗が増加します。また、等価直列抵抗(ESR)と比較してインピーダンスが小さくなるので、コンデンサが抵抗として機能し始めます。コンデンサの等価直列インダクタンス(ESL)にも高周波効果があります。これらの寄生要素が含まれている場合、LCフィルタの等価回路は図2のようになります。


図 2: 寄生素子が追加された外部フィルタ

Parasitic effects in inductors change noise attenuation performance
LLOSS 1と2は, RLOSS 1と2 とともに、周波数に依存するコア損失の影響を回路に含める最も単純な方法です。LLOSSの値が異なるとインピーダンスが異なるため、抵抗素子RLOSS 1と2は異なる周波数で影響を与えます。モデルをより正確にするためにさらに多くのLLOSS/ RLOSSネットワークを追加することができますが、インダクタのデータシート情報から部品の値を計算するのは難しいため、特定のインダクタとコアの完全なモデルのために経験的に値が導かれます。図3は、LとCのいくつかの仮定値と、それらの寄生成分を含むフィルタ減衰のシミュレーションプロットをLLOSS/ RLOSSネットワークの有無に分けて示しています。コア損失がノイズの高周波減衰に大きく影響することがわかります。このケースでは、10MHz付近で20dBの差があります。残念ながら、コア損失は標準的なインダクタのデータシートでは規定されておらず、大きく異なる可能性があります。


図 3: コア損失を考慮した場合と考慮しない場合のLCフィルタの減衰

入力EMCフィルタ部品の選択
DC/DCコンバータの入力にEMCフィルタ用の市販インダクタを選択する際(図4)、通常インダクタメーカーのデータシートには、インダクタンス、DC抵抗、時には共振周波数以外の情報が記載されていません。これにより反射入力リップルを既知の量だけ減衰させることができますが、スパイクノイズとそのスペクトラムの減衰量は、寄生成分を定義するデータなしでは容易に予測できません。出力フィルタ解析で見られるように、コア損失のような高周波効果はノイズ減衰に更に強い影響を与えます。非常に多くの変数があるため、インダクタメーカーが情報を提供していないのはもっともです。例えばコア損失は、波形のAC成分の振幅とその形状によって異なります。また周波数、DC電流バイアスおよび温度にも依存します。


図 4: 一般的なDC/DCコンバータ入力EMCフィルタ

したがって、最適なインダクタを選択することは難しく、最悪の場合、動作上の限界または法定限度を超える伝導および放射ノイズレベルが発生する可能性があります。この問題は最終製品が外部EMC機関でテストされた時に初めて見つかることもあり、その時点での改善には多額のコストが掛かることがあります。

アンテナやEMCチャンバなども含む適切なテスト機器が使用可能な場合は、異なるメーカからの同じ定格項目を持つインダクタのサンプルをインサーキットでテストし実際の結果を確認することができます。大きな値のインダクタンスは良い選択と思われるかもしれませんが、共振周波数は低くなります。また物理的に小さな部品は高いDC抵抗を持ちやすく、それによりコンバータの負荷による電圧降下を引き起こし、電力を消費します。大型のインダクタも、自己容量が大きいため高周波の減衰が少なくなります。最後に考慮すべき点は、大きなインダクタンス自体が負荷電流ステップを受けると電圧スパイクを引き起こすことです。

インダクタンスを小さくしてコンデンサを大きくすることも可能ですが、コスト及びサイズ面から電解タイプを使用すると高周波特性はさほど良くなりません。セラミックなど他のタイプは高周波では優れていますが、高価で、容量値が大きいとサイズが大きくなります。LとCの正しい組み合わせは、コスト、サイズ、およびパフォーマンスを考慮し妥協しなければなりません。インダクタンスを優先すると、市場で入手可能なタイプでも紛らわしい選択があります。フェライトと鉄粉のコアタイプと、多結晶コアのようないくつかの非標準的な選択があり、ドラム型、リング型、 'E'コア型などの他にも、性能に影響を与えるスルーホールまたはSMDタイプがあります。同じインダクタンスと電流定格であるような部品でも、価格が大きく異なることもあります。

それぞれのタイプのインダクタが適する特定のアプリケーションがあります。フェライトタイプは最も損失が少ないですが、材料自体は例えば鉄粉よりも高価です。鉄粉も過電流に対する耐性が高く、フェライトよりもインダクタンス保持が優れています。 ‘リング‘またはトロイドコアは磁場漏れが少ないですが、ドラムまたは‘ボビン‘コアよりもコイル巻きやコイル終端処理が困難です。したがって、設計、製造、EMC、購買、およびプロセスエンジニアは、最適なソリューションを選択するために合議する必要があります。

コンバーターメーカーが検証したソリューションの推奨
AC/DCおよびDC/DCコンバータメーカであるRECOMは、適切なインダクタを指定することの難しさを認識しています。社内のEMCチャンバで測定した伝導および放射ノイズのテスト結果を検証して、ほとんどのコンバータに適合する低コストのインダクタと推奨コンデンサを提供します。顧客は、検証済みノイズ低減ワンストップソリューション、開発期間と費用の削減の恩恵を受けより早く市場に参入することができます。

参考資料
[1] RECOM: www.recom-power.com
[2] Modelling ferrite core losses: http://ridleyengineering.com/design-center-ridley-engineering/39-magnetics/185-a03-modeling-ferrite-core-losses.html

RECOM: We Power your Products
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