標準準拠、セミカスタム、フルカスタムデザインについて – RECOMのアプローチ

RECOM power supplies and Customized Solutions sign
RECOMは25,000種類以上のDC/DCおよびAC/DCの標準製品を提供していますが、それでも時には非標準のコンバータが必要な場合があります。この記事では、標準準拠、セミカスタム、カスタムのパワーコンバータの違いについてご紹介します。

RECOMが業界で最も幅広いパワーコンバータのポートフォリオを持つ理由の一つは、当社の標準製品群の中に非常に多くのバリエーションがあることです。例えば、DIP24ケースの5W絶縁安定化DC/DCコンバータREC5シリーズを例にとると、データシートにはシングルおよびデュアル出力を含め、5入力9出力の電圧オプションがあると記載されています。絶縁電圧は2kVから6kVまで3種類、ピン配列も3種類あり、リモートオン/オフピンを備えたバージョンなど、競合製品とピン互換性を持たせることが可能となっています。さらに、基板実装ピンはスルーホールまたは表面実装のバリエーションがあります。

ケース材質は、プラスチックまたは金属を選択できます。最後に、このシリーズは、チューブまたはテープ&リールいずれかの包装オプションが用意されています。このように、このDC/DCコンバータシリーズは標準で2,000通り以上の組み合わせが可能となっています。

標準準拠パワーコンバータ

これだけ豊富なカタログ製品群があれば、お客様の要望はすべて網羅されているように思われますが、それでもお客様の要望する特定の仕様が選択肢に含まれていないことがあります。例えば、ピンの長さを変える(短くする、長くする)、出力電圧を通常の5Vから5.7Vにして出力回路にOR-ingダイオードを入れるなどです。このような要望は非常に簡単で、「標準準拠」製品の範疇に入ります。s.

変更された出力電圧がなぜそれほど容易なのかを理解するためには、DC/DCやAC/DCコンバータの出力電圧を調整する最も一般的な方法である、高精度プログラマブルリファレンスICに基づく出力シャントレギュレータを見てみるとよいでしょう(図1)。



図1:簡易シャントレギュレータ回路(この回路では、VsetはVref(1+(R1/R2)) + Voptodiodeとなります)
スイッチングサイクルごとに、出力電圧はシャントレギュレータの設定電圧Vsetを超えるまで上昇し、その時点でオプトカプラが通電しサイクルがリセットされます。この回路は非常にシンプルですが、負荷電圧とライン電圧の両方の変動に対して正確に出力電圧を調整します。スイッチングのデューティサイクルと出力電圧は、トランスの巻数比、Vref電圧(通常1.22V)、2つのプログラミング抵抗R1、R2の組み合わせによって決定されます。

このコンバータを5.0Vではなく5.7Vに変更するには、R1またはR2の値を変更して異なるプログラミング分圧比を作成する必要がありますが、これは簡単な変更であり、ほとんど追加コストはかかりません。RECOMは自社でSMD組立ラインを持っているので、生産SOPとレーザー印刷ラベルを変更するだけで出力電圧を変更したコンバータを作ることができます。

また、標準的なコンバータに頼るのではなく、お客様の最終アプリケーションの特定の要件に合わせて部品値の選択を最適化することも可能です。非安定型DC/DCコンバータを例にとると、出力電圧は負荷と入力電圧の両方に依存します。一般的には、出力電圧の許容範囲の図(図2)に示すように、公称入力電圧と80%の負荷で公称出力電圧が得られるように、部品値を調整します。



図2. 非調整型コンバータの電圧許容差の例(R1SXシリーズ)
この標準的な構成は、一般的に全負荷よりわずかに低い負荷で動作する非調整型DC/DCコンバータの出力電圧の許容範囲に対する最も一般的な要求を満たすものです。出力電圧は全負荷時には低く、低負荷時には高くなるという妥協点があります。低負荷時の出力電圧の上昇を+7%以下に抑えたいというご要望があれば、Vnom電圧を80%ではなく70%負荷で出力するように部品値を変更することで出力電圧を例えば+5%以下に抑えるように設計し、事実上許容範囲を下方にシフトさせることが可能です。この場合、全負荷時の出力電圧は下がりますが、このアプリケーションでは問題ないでしょう。

しかし、最終的なアプリケーションの要求に合わせて部品値を最適化することで実現できる出力電圧の修正量には限界があります。公称出力電圧はトランスの巻数比に依存するため、必要な出力電圧が規格から大きく外れる場合、巻数比を変更した修正トランスが必要になる可能性があります。この場合、トランスの品番をカスタマイズするだけでなく、安全規格の再認証が必要となります。ここで、標準準拠のコンバータから、「セミカスタム」設計について説明します。

セミカスタムパワーコンバータ

セミカスタムと標準準拠パワーコンバータの境界は必ずしも明らかではないので、安全認証が再度必要か否かが有効な定義となります。トランスの構造、オプトカプラやYコンデンサの選択、沿面距離や空間距離など、安全上重要な部品や分離に影響を与える変更は、ほぼ確実に新しい認証プロセスを必要とします。しかし、安全性試験報告書では、製造公差に対応するため、一般的に出力電圧と電流の定格に±10%の変動が認められており、ある程度の柔軟性が残されています。入力電圧の定格も少なくとも±20%、多くの場合それ以上の公差があります。必要な変更を行ってもこれらの公差内に収まるのであれば,再認証は必要ないでしょう。また、オリジナルの安全性試験報告書に、特定の部品やポッティング材について「代替構造」のオプションが記載されている場合も同様です。お客様のアプリケーションによっては、ガス放出により他の部品に影響を与える可能性がある、あるいは火災時に煙が出る可能性があるため、シリコンポッティング材が許可されない場合があります。シリコンは高い熱伝導性と優れた接着性を持つ優れた封止材料ですが、これらのお客様にはエポキシポッティングを標準準拠オプションとして提案できるかもしれません。

意外に思われるかもしれませんが、ラベルのデザインや文章は安全書類の一部とみなされ、認証機関によって非常に慎重に管理されています。例えば、RECOMの標準ラベルではなく、お客様独自のブランド名と部品番号を使ったカスタムラベルデザインの依頼を受けることがあります。物理的には2つのパーツは同一ですが、この変更パーツを有効な安全認証で製造するには、新しいラベル、パーツ番号、お客様のロゴを記載したコピー証明書を申請する必要があります。弊社はこのようなリクエストに対応した経験があり、可能な限り迅速、簡単、かつ煩雑にならないようなプロセスを心がけています。

セミカスタム電源コンバータにおいては、単に仕様を変更するだけでなく、PCBレイアウトを変更してコンバータ形状を変更したり、製造中止になった他社製品とピン配置を合わせて置き換えたりなど、より柔軟な対応が可能です。また、物理的な変更である必要はなく、動作温度範囲を広げるために定格の高い部品を使用したり、特定の環境条件に対応するために硬いエポキシ樹脂を使用したセミカスタムコンバータを製造しています。これらの変更はすべて標準設計に基づいているため、セミカスタム製品は形状、適合性、機能に関する個々のお客様の要件を満たしていますが、当社の標準生産ラインで迅速かつ安価に製造することができ、市場投入までの時間が短くなります。

セミカスタムパワーコンバータの例



図3:R-78Tシリーズの3種類のフォーマット(/AC, /AL, /FC)
2010年、米国の競合他社がスイッチングレギュレータの製造を突然中止し、既存の顧客ベースを「窮地」に陥れました。あるお客様から、「従来の設計とは全く異なる形状だが、RECOMの標準製品であるR-78シリーズを変更して、これらの生産中止品とピンおよび機能互換にできないか」というご相談をいただきました。そして、わずか12週間で、これらの生産中止品とピン互換性がある3種類のオープンフレームSMDピンオプションを持つR-78Tシリーズをリリースしたのです。スイッチングレギュレータモジュールの設計と製造の豊富な経験があり、これをベースにセミカスタム設計を行うことができたからです。



図4:IEC 62477-1 OVC III認証セミカスタムRAC20-K/X6
最近では、EV充電スタンドの補助電源として20Wの基板実装用AC/DCモジュールのカスタム依頼を受けました。充電ステーションは電源とハード的に接続されるため、OVC III (Over Voltage Category III) に分類され、過電圧サージ、絶縁定格、沿面・空間距離に関する追加の安全要求事項を満たす必要があります。当社は、IEC 62477-1, OVC IIIの要件を満たすために、PCBレイアウトとトランスの構造を変更し、標準のAC3kV/1分定格からAC4kV/1分定格の強化絶縁に変更したセミカスタム製品、RAC20-K/X6を製造することが出来ました。この偉業は、寸法やピン配置、広い入力電圧範囲、広い動作温度範囲、無負荷時消費電力40mW未満といった他の重要な仕様を変更することなく達成されました。

セミカスタム設計の多くは、他のお客様も同様の部品を必要としているため、結果として当社のポートフォリオの中で標準的な既製品のオプションとなることがあります。

フルカスタムパワーコンバータ

フルカスタムパワーコンバータは、既存の製品をベースにしていないため標準準拠品やセミカスタム品とは異なりますが、実証・テスト済みのビルディングブロックや既存の生産インフラが適切に使用されていることに違いはありません。カスタムパワーコンバータプロジェクトを実現するための典型的な要件は、既存の製品ではニーズを満たせないこと、コスト(研究開発、試験、生産)が両パートナーにとって妥当であること、そしてプロジェクトの規模がリソースへの投資を正当化するものであることです。

典型的なカスタムパワーコンバータのプロジェクトステージを図5に示します。



図5:カスタムパワーコンバータのプロジェクトステージ

プロジェクトプロポーザル: カスタムパワーコンバータの技術要件(機能仕様、性能要件、技術規格、物理的寸法)およびコマーシャル条件(予算、予想数量、目標コストなど)を詳細に記載した顧客からの最初の依頼書です。 プロジェクトの評価: 技術要件の分析(適合性、製造可能性、資材の入手性など)。そのプロジェクトは実現可能か?

プロジェクト計画書: プロジェクト計画には、プロジェクトのスケジュール、リソース配分、各段階で達成すべきマイルストーンなどが詳細に記載されます。

プロトタイプ: 機能仕様への準拠を確認するためにプロトタイプを作成しますが、この段階で仕様が変更されることはよくあることです。カスタム電源の初期要件が明確であっても、市場の変化に対応するために、仕様の更新やさらなる変更が必要になる場合がありますが、これは珍しいことではありません。お客様とRECOMの設計チームとの間のコミュニケーションがオープンである限り、私たちはお客様と同じように柔軟に対応することを目指します。初期プロトタイプの承認後、次の段階では、統計的に有効な性能試験やストレス試験を実施するためのプリプロダクションプロトタイプ(最低50台)が作られます。 DVT/PVT: 設計検証試験と生産検証試験は、プロジェクトの成功に欠かせないものです。RECOMは、カスタム設計が目的に適っており、予測可能なすべての動作条件および故障条件下で確実に機能するという高い信頼性を保証するデータシートおよびテストレポートを顧客に提供します。そのためにRECOMは、電気試験、気候室での環境試験、信頼性試験(電気・熱ストレス試験、安全動作領域試験、長期ソーク試験、衝撃・振動など)、生産許容試験など、迅速な試験と評価を可能にするネットワーク化された試験ステーションを備えた自動試験ラボを有しています。


生産・認証計画: DVTテストが十分に進み、設計がフリーズされると同時に、生産計画が開始されます。必要なコンポーネントを一次および二次サプライヤから購入し、カスタムハウジング、印刷、包装材を注文します。生産準備の整ったプロトタイプは、各種認証機関(UL、IEC、EN、CBレポートなど)に送られます。

生産: 組立ラインを設置し、最終製品を製造、テスト、出荷します。

変更管理: 前述したように、変更は避けられないものであり、正しく管理する必要があります。技術標準は平均して3年ごとに更新され、新しい規制に準拠するためにカスタム設計の変更が必要になる場合もあります。また、主要部品の入手方法を変更する場合、製品変更通知書(PCN)を用いてお客様に通知し、同意を得る必要がある場合もあります。製品ライフサイクル(PLC)文書は、最終的にお客様が部品の使用終了を決定するまで、製品のライフサイクルに渡って維持されます。

結論:

種類 カスタムレベル 複雑さ サンプル時期 追加コスト
標準準拠品 限定的 単純 数週間 少額あるいは追加無し
セミカスタム 柔軟だが限定的 中庸 2〜3ヵ月 NREコストは低いが、再認証費用が必要なケースあり
フルカスタム 柔軟 複雑 数か月 製品に依存するが、NREコスト新規認証費用が大きい
図6:標準準拠、セミカスタム、フルカスタムコンバータのメリット・デメリットのまとめ

この簡単な紹介でおわかりのように、RECOMパワーコンバータは標準準拠品、セミカスタム品、フルカスタム品として顧客に提供することが可能です。それぞれのタイプにはメリットとデメリットがあります(図6)。最も簡単な決定方法は、当社との十分なコミュニケーションを行い、最適なソリューションを実現するために合議することです。

RECOMでは、カスタマイズのご要望にお応えするために、4つの専用メールアドレスを設けています。RECOMの担当者が、お客様のご要望をより詳しくお伺いするためにご連絡させていただきます。

RECOMへお問い合わせください フルカスタム、セミカスタム、スタンダード製品のモディファイを最短納期で最小コストのご提案を致します。

アプリケーション
  Series
1 DC/DC, Single Output, SMD R-78T-1.0 Series
  • Efficiency up to 95%, no need for heatsinks
  • Industry standard pin-out
  • 1.5A start-up overload capacity
  • Non-isolated regulator, very low standby current