医療アプリケーション向け基板実装型DC/DCコンバータ

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プロのホームヘルスケア(在宅医療)は、急激に拡大している市場です。クリティカルなバイタルサインから通常のベッド使用センサまで、ますます電子モニタリングの利用が増えています。電子機器の電源は通常、安全な電気的絶縁を必要とします。この記事では、典型的な状況で電源絶縁が必要な理由と、摘要される安全規格の概要を説明します。例示した基板実装型DC/DCコンバータを使って、公表規格のいくつかを説明します。

EUでは、医療機器は医療機器指令であるMDD:93/42/EEC指令Article 3の必須事項、市場投入される製品はArticle 3、Annex I、ER1、Annex II、Annex III、Annex VIIのリスクアナリシスの必須事項に適合していなければなりません。これは、機器の安全と基本性能、特にオペレーターと患者の感電に対する保護を確実にするためです。製品が安全規格60601-1の現行第4版に適合していれば、準拠していると推認されます。MDDは2024年までに、より厳しい医療機器規則(MDR)に置き換えられます。

AC/DCコンバータの絶縁に関する要求は明確
医療アプリケーションに使用されるAC/DCコンバータが、感電に対して高度な保護が必要とされる理由は明らかです。もし電源が故障した場合、高電圧ACラインから患者の肌に密着した導体、もしくは内部器官の侵襲センサなどに直接的かつ致命的な接触が生じます。また、逆も真なりで、医療グレード装置は、例えば焼灼や細動除去処置の間、フローティング状態の患者が接地され外部高電圧を受けないための保護を備える必要があります。医療安全規格の絶縁レベル規定は明確で、オペレーターと患者の両方にMOP(Measures Of Protection:保護手段)を規定しています。各カテゴリに対して、最低限全体に対する2つのMOP、2×MOOPと2×MOPPが必須です。電気的接触関しては、使用される部品の3つの詳細な定義があります。

タイプB: 患者との電気的な接触がなく接地させている
タイプBF: 患者と電気的接触があるが心臓に直接ではなくフローティング状態
タイプCF: 患者と電気的接触があり心臓に直接でフローティング状態

すべての安全規格のように、必要な絶縁特性に影響を与える環境要因(システム電圧、汚染度、電源電圧の過電圧カテゴリ、標高)もあります。存在するか否か、機能接地(FE)や保護接地(PE)といった接続方法、また「グラウンド」も重要な要素になります。

DC/DCコンバータも絶縁を必要とする可能性
医療機器では多くの場合、バッテリまたはACを電源とするDC電圧入力で、回路に必要な実際の電圧値に、またはセンサなど周辺装置への給電のために電圧レベルを変換するDC/DCコンバータが必要です。大多数のDC/DC入力は5Vや12Vといった低電圧で、出力は±5Vや3.3Vのような低電圧です。機能面では絶縁は常に必要ありませんが、グラウンドループの遮断、センサ間のクロストーク制御補助、電磁干渉(EMI)の低減、単純な正電圧から負電圧の生成などに使われています。機能的に絶縁が不要でも、たとえ入出力電圧が低く、「安全」電圧の規定以内でも、やはり安全のためには絶対必要です。これには異なる理由があります。

AC/DCコンバータに加えたDC/DCコンバータが、包括的医療認証システムの重要部分を形成
AC電源の医療機器には2×MOOPや2×MOPPといった、IEC 60601、その地域版であるEN 60601(欧州)、ANSI/AAMI ES 60601(米国)に従ったアプリケーションに適合するために必須の絶縁システムを備えた医療認証済み電源を使うことができます。これらの電源は法令に基づく医療安全要求に適合するために、特別に設計されている必要があります。したがって、安全規格がより緩和された産業用や民生用の電源に比べ、一般的に高価です。EN 60950-1や、その後継でさらに絶縁レベルに追従したEN 62368-1のような産業安全規格認証を取得している、より安価な大量生産品を使う方法として、安全規格はお互いをシリアルに使うことを認めています(図1)。追加になるのは、AC/DCコンバータ出力とオペレーターや患者に接触可能な回路領域の間のDC/DCコンバータです。全体的な費用は専用の認証済み電源を購入するよりかなり少なく済みますが、医療環境における漏れ電流の規格もあり、ほとんどのIT仕様電源は間違いなくそれを超過しています。これは、AC/DCコンバータのラインからグラウンドへの「Y」タイプ抑制コンデンサを削減するか除去することで減少させることが可能ですが、他の方法で低減しなければならないEMI対策の費用がかさんでしまいます。IEC 60950-1の要求に適合しているAC/DCコンバータは、自身のオペレーター保護の方法には適しますが、医療環境ではACラインとニュートラルの両方にヒューズが必須で、それぞれ1500Aの遮断容量が必要です。また、IEC 60601の最新版となる第4版は、システムが準拠しなければならないEMC規格の修正条項があり、ITグレード電源の使用は必ずしも単純な代用にはなりません。


図1:「保護対策」の追加

DC/DCコンバータが患者経由の漏電を防ぐ
医療システム用の安全要件部品は、リスク解析において他の装置の故障が考慮されていなければなりません。最悪の場合は、患者またはオペレーターが単一故障状態の障害のある装置との接触から電源につながれてしまい、人体を通じて電源からグラウンドへ電流が流れれば感電死や火傷を被ります。したがって、例えば患者に接触するものには、規定されたレベルのグラウンドからの絶縁が必要です。「グラウンドからの絶縁」は相互的対処で、何らかの50/60Hz電流を許容する複数チャネル装置のなどを通じた患者からグラウンドへの寄生または残存静電容量が常に存在します。異なる経路から電流が追加されるので、その規定は各ソースに対して非常に低いレベルに設定されています(図2)。


図2:医療アプリケーション違いに対する最大許容漏れ電流(NC=正常状態)

DC/DCコンバータは多くの場合、外部の単一故障状態からの保護を達成する追加の絶縁レベルを与えるために使われます。装置は、AC電源、クラスⅠまたはⅡ、バッテリ動作、ハンドヘルド、そしてイーサネットによるネットワーク、USB経由のデータロガーやプリンタのような規定がない他の接続を持っているでしょう。ケーブルは、グラウンドに接続する/しないシールドを持っている/いない可能性があります。それゆえに、DC/DCコンバータの絶縁レベルの規定は簡単な作業ではありません。クラスⅡ機器(アースなし、プラスチックケース)に対するDC/DCコンバータ使用の例を図3に示します。主電源AC/DCコンバータの絶縁(B)は2×MOOP保護を備えており、必要な適用部に給電するDC/DCコンバータは、BFまたはCFアプリケーションの全体的な2×MOPPに対する1×MOPPを備えています。DC/DCコンバータの絶縁はシステム電圧(この例では240VAC)に対応する定格でなければならず、プラスチックケースは適合する電気的定格を持った最小1mmの厚さで、他の低電圧回路へ外部接続を持っていてはいけないことに注意してください。


図3:クラスⅡ機器、高絶縁DC/DCコンバータを要する可能な接続の概要

他の例として、クラスⅠ(アースあり)、金属ケース、患者に接触するBFまたはCF「適用部」に給電するAC入力機器を図4に示します。機器電源(SIP/SOP)の低電圧側から他の外部機器への、不特定の入力/出力信号の接続もあります。


図4:クラスⅠ機器、高絶縁DC/DCコンバータを要する可能な接続の概要

この例では、240VAC(B)の主電源絶縁が2×MOOPであっても、DC/DCコンバータ(D)にはまだ2×MOPPが必要です。それは、障害状態でシステム電圧(240VAC)において考慮が必須の48V電源のSIP/SOPという不特定の接続があるからです。したがって、絶縁Dも240VACに対応する定格でなければなりません。DC/DCコンバータの出力もまた、1×MOPPで金属ケース(E)から絶縁される必要があります。もし、SIP/SOP接続がシステム電圧に対する2×MOPP絶縁を持つという特定がなされており、当然ながら誤って取り替えられなければ、バリアDは1×MOPPに下げることが可能です。図の「BOP」は、ACラインとニュートラルの「基礎逆極性:Basic Opposite Polarity」絶縁です。

DC/DCコンバータの他の仕様も重要
正常および単一障害状態での絶縁と漏れ電流は、これら医療アプリケーションにおける主要要求事項ですが、製品と内部トランス温度、材料の可燃性、そして、炎、煙、焼損、機械関連の危険といった、リスク解析で検討および文書化されなければならない、可能性のあるすべての危険に関する制限もあります。

医療アプリケーション用DC/DCコンバータの実践的設計
小型DC/DCコンバータにおいて必要な沿面および空間距離を備えることは、特に周囲および内部のトランスにとって非常に大変なことです。適正な絶縁レベルを得るためにトランスの物理的空間を利用できる見込みはほとんどなく、連続的ならせん巻きで3つの重なり合う層で形成されるワイヤー絶縁である、三相絶縁電線(TIW)の使用を含めたスペシャリストの技術が必要です。寄生容量を経由する漏れ電流は、いずれにしても通常は少ないのですが、DC/DCコンバータはシステムコモンモードノイズの抑制に関する規制に適合するために、外部に追加の入出力容量を必要とすることがあります。もし、装着されているなら、それらのコンデンサは絶縁バリアを交差するので、適正な安全定格「Y」タイプで予定しているアプリケーションに対して漏れ電流を低く維持するものでなければなりません。したがって、本質的にEMIが小さいDC/DCコンバータが好ましいことになります。

市販のソリューション
例えばRECOM[1]などのメーカーは、低価格コンバータのREMxEシリーズで医療アプリケーション用DC/DCコンバータの設計課題に取り組んでいます。電力定格は3.5W、5W、6W、パッケージはDIP24スルーホールでSMTタイプは準備中です。入力範囲は2:1、公称入力電圧は5V、12V、24V、48Vで、完全安定化のシングルおよびデュアル出力が選択できます。すべて、内部/外部の沿面および空間距離は8mm超、最大漏れ電流は1µAの250VAC定格2×MOPPを備えています。動作温度範囲は3.5Wタイプがディレーティングなしで-40℃~+85℃、5Wタイプは最大が+80℃、6Wタイプは75℃になります。DC/DCコンバータは、医療機器の安全定格の達成を助ける必須の部品で、RECOMの市販ソリューションは、すべての規制と性能の認定を持っており、価格も魅力的です。


Steve Roberts, CTO at RECOM Power

Steve Robertsはイングランドに生まれました。ブルネル大学ロンドンで物理学と電子工学の理学博士号を取得し、ユニバーシティーカレッジ付属病院に勤務しました。その後、来館者参加型プログラムの主席として科学博物館(ロンドン)に転職し、ロンドン大学ユニバーシティカレッジで理学修士号を取得しました。18年前に英国からオーストリアに移住し、グムンデンのRECOMグループのテクニカルダイレクタに就任しました。彼は RECOM DC/DC & AC/DC book of knowledge,の筆者です。


リファレンス

RECOM: www.recom-power.com/medical

Please refer to the DC/DC Book of Knowledge,

RECOM: We Power your Products
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