プラグイン電気自動車の所有者のほぼ全員が、車両を
電気自動車充電器に接続するために、重くて高価なケーブルを使用しています。ケーブルは、必要とされるピーク充電電流(通常は11kWから100kW以上)を流すのに十分な太さや、車の後部に不注意に放り込まれたり悪天候で使用されたりするのに耐えられる強度や、繰り返しの抜き差しに耐えられる堅牢性が必要であるため、高価になります。それでも、ケーブルとコネクタの寿命には限りがあり、日々の使用によって最終的には安全でなくなったり、摩耗したり、損傷したりします。より良い解決策は、ケーブルとコネクタを完全になくすことでしょう。
ワイヤレス電力伝送の基本
WPT(ワイヤレス電力伝送)技術の歴史は1800年代後半にさかのぼります。Heinrich Hertzは当時、RF放射を集束させるために2つの放物面鏡を使用した高周波スパークギャップワイヤレス電力伝送を実演しました。世紀が変わる直前には、Nikola Teslaも結合した電磁共振回路の実験を行いましたが、有意義な量の電力を伝送したという証拠はありません。電磁誘導電力伝送の実演に最初の成功したのは1910年のことで、開放形変圧器の上で電球を点灯させましたが、これもまた実用的なワイヤレス電力製品にはなりませんでした。商業的な成功にはならなかったものの、こういった初期のパイオニアたちは、現在使用されている主要なワイヤレス電力伝送技術の基礎を築きました。
WPT 方式 |
範囲 |
周波数 |
用途 |
電磁誘導 |
近距離 |
kHz-MHz |
電動歯ブラシ |
磁界共振結合 |
中距離 |
kHz-GHz |
携帯電話充電器、EV充電器 |
静電結合 |
近距離 |
kHz-MHz |
生体医療用インプラント |
マイクロ波 |
長距離 |
GHz |
人工衛星 |
レーザー |
長距離 |
THz |
ドローン |
静電結合および磁気方式のWPTシステムにおいて、送信機と受信機の間の単位体積の空気に貯蔵されるエネルギーは、それぞれ次のように求められます。
高周波ワイヤレス電力伝送
主電源から利用できる低周波の50/60 Hz交流電流を使用して誘導充電を実行することも可能ですが、これは高電力では非効率的です。
ここでは、出力電力
Poutは、共振時の角周波数
ω0に相互インダクタンス
M、送信コイルの電流
It 、受信コイルに生じる誘導電流
Irを乗じたものです。 そのため、送信電力は交番磁界の周波数に直接比例します。 しかし、コアの渦電流とスイッチング損失は周波数が高くなるにつれて増加するため、ピーク電磁誘導電力伝送効率のためには、他のシステムパラメーターに依存する最適なWPT動作周波数が存在します。
既存の
高出力スイッチング技術では、20kHzから150kHzの共振周波数が最良の結果をもたらします。
システム効率に影響する最後の重要な要素は、電源、コイル、および負荷抵抗のマッチングです。 最大電力伝送効率 (PTE
max) は、以下の関係式から導出されます(共振時)。
ここでは
RLは負荷抵抗、
Rtは送信機抵抗、
Rrは受信機抵抗をそれぞれ指します。
最高のパフォーマンスを得るには、負荷、受信コイル、送信コイルの抵抗がすべて同じである必要があります。
これにより、WPTシステムの設計においていくつかの実際的な問題が生じます。送信機の高電流電源フロントエンドとインバータは、内部インピーダンスが非常に低いため、コイルへの結合伝送電力を最大にするためには、高周波インピーダンス整合変圧器が必要になる場合があります。同様に、負荷は充電状態に依存する非線形の内部抵抗特性を持つバッテリーパックであるため、最適な電力受信のためにインピーダンスを調整できるDC/DCオンボード充電(OBC)ユニットが必要になります。これは、
太陽光発電DC/DCコンバータで使用される最大電力点追跡(MPPT)回路とよく似ています(図6)。
図6:WPTパワーステージおよび予想変換効率
効率目標を達成するには、アクティブフロントエンド(AC/DC変換および
力率補正)はブリッジレストーテムポール配列または同様の配列(図7)を使用する必要があり、インバータはフルブリッジまたはLLCトポロジーのバリアントを使用する必要があります。どちらの設計でも、複数の絶縁型トランジスタゲートドライバを使用する必要がありますが、RECOMは、標準的で
プログラム可能な絶縁型ゲートドライバDC/DC電源でWPTの設計をサポートすることができます。
図7:GaNトーテムポールブリッジレス整流器の回路例
高出力スイッチング設計では、各レグの電源グランド浮遊インダクタンスのバランスを取ることが困難な場合が多く、これが非対称性能やスイッチングの不安定性を引き起こす可能性があります。ハイサイドとローサイドの両方のゲートドライバを絶縁すると、この問題は解消されます(図8)。
RECOMは、高絶縁性、最適なパワートランジスタスイッチングのための非対称出力電圧、広い動作温度範囲を備えたコンパクトなゲートドライバ電源モジュールを幅広く提供しており、双方向回路を含むこのような高出力設計に最適です。
図8:フルブリッジゲートドライバの回路例
まとめ
ワイヤレス電力伝送は、コストが高いためにまだ主流ではありませんが、技術的には、有線の
電気自動車充電システムの代替手段として現実的なものです。EVが例外的なものではなく標準となっていくにつれて、駐車場まで運転してワイヤレスでバッテリーの充電を開始するだけという使いやすさと利便性が、WPTの魅力をさらに高めることになるでしょう。特に、車を移動させ駐車させるという技術自体はすでに存在しているのですから。最終的には、電気道路を使用した外出先でのWPT充電により、EV使用の「航続距離の不安」が解消され、旅の最初だけでなく旅の最後にもバッテリーがフル充電されているということが可能になります。
RECOMはすでに、電気自動車用の高電圧電源とワイヤレス充電システムの構築、評価、テストを可能にする製品を提供しています。