一般にAC/DCコンバータは、小型化を進めながら年々効率が向上し、電子機器の小型化に対するすべてのトレンドに沿うようになってきています。基板実装型のAC/DCコンバータも同じように進んでいますが、安全や熱損失のようないくつかの規格においては、サイズ削減や電力密度の増加が問題となっています。
一般に低電力用に利用されるフライバック設計
基板実装型AC/DCコンバータのコスト削減には、自然に部品数が最も少ないトポロジーが選ばれます。以下は10W程のAC/DCコンバータで、例外なく1個のパワートランジスタとトランス(正確には結合インダクタ)、そして出力にダイオードとコンデンサをともなう「フライバック」コンバータです。制御ICは、出力電圧を直接的に(一次側安定化)、または間接的に(オプトカプラ経由の二次側安定化)サンプルして、パルス幅変調(PWM)か周波数変調(PFM)、場合によってはその両方に構成されている出力段にフィードバックします。通常は、EMIを法定レベルに削減するためのフィルタ部品と、主電源遮断に対するエネルギー保持時間を確保するための大容量(バルク)コンデンサが追加されます(図1)。高電圧ACと出力の間には、個体絶縁材料か空間および沿面距離の絶縁による「バリア」があります。バリアを交差するトランスや光絶縁素子のような部品は、国際安全機関を満足する十分な絶縁を提供するように構成されています。
図1:一般的な低電力AC/DCコンバータでのフライバック回路
フライバックは簡単ですがマイナス面があります。内部電圧が高くなる可能性があり、スイッチに関しては一般に600V以上で、いくつかの部品が高いリップル電流によるストレスを受けます。出力コンデンサの例では、DC出力電流値の1.5~2倍のピークリップル電流に耐える必要があります。リップル電流が大きいとコンデンサのESRで電力損失が生じ、コンデンサの温度を上昇させます。動作モードによっては、一次側スイッチ電流のピークおよび実効値も驚くほど大きくなり、高電圧スイッチのオン抵抗が比較的高いので効率は低下し、スイッチとAC部品の入力電流ソースである入力コンデンサの両方で電力を損失します。
しかしながら、初心者でもシンプルなフライバックコンバータの部品定数を選定可能にする書籍や電源ICのアプリケーションノートがあり、高周波数レイアウトのルールとトランス構成の十分な知識が提供され、動作する製品を作ることはそう難しくありません。もし、サイズがあまり重要でなければ、安全規格を容易にクリアでき、自然対流による放熱が可能になる十分な空間があります。構成部品は大きくても問題なく、機能とEMI性能と保証するために余裕を持った定格のものを選ぶことができます。携帯電話の充電器の大半にはフライバックトポロジーであり、電子機器の小型化は明らかに可能ですが、これらは、住宅やオフィス環境のおそらく0~40℃という制限された温度範囲で動作しなければなりません。
一方、スペースとコストに制限がある、またはAC/DCコンバータが他の装置の内部で動作する必要があるときには、侮りがたい課題が存在します。もし、アプリケーションが産業グレードであるならば、湿気や汚れをともなう環境、非常に高い過電圧過渡、-40℃という低い温度から+75℃以上という広い温度変動に耐えるという要求をクリアする必要がでてきます。入力電圧範囲は非常に広く、民生用に比べ非常に高い信頼性と長寿命も期待されます。
実際の設計の制限
サイズ削減における実際上の制限は、IT/メディア用EN 62368-1や家電用のEN 60335-1といった規格に基づく安全のための最低限の絶縁で、250VACシステムでは最低9mmの入力と出力間の空間および4mmの絶縁沿面距離が要求されます。これは、最悪の汚染度と材料グループに対するもので、封止デバイス、コーティングされたPCB、高トラッキング指数(CTI)材料については緩和されます。しかし、その安全のための規定沿面距離は、幅が25mm程しかないコンバータには実際上使えないことがわかります。したがって、規格認証を完全に利用するにはPCBに溝を切ったり、クリティカルな部品にセパレータやキャップを追加したりすることで、規定距離の最小要求値を確保する慎重な設計が必要です。
トランスにおいても、沿面距離と空間距離の要求は問題になります。高電力でサイズが大きいトランスは、一次側から二次側巻線への標準沿面距離6mmを保証するために、中にテープによってマージンを設けて標準的なエナメル線巻線を用いることができます。低電力用はボビンの巻線幅がわずか数ミリメートルで、これは明らかに要求に対応できません。解決策の1つは、どのポイントにおいても3つの層により絶縁が保証される、螺旋状に被膜が重なり合う安全規格の「三層絶縁線(TIW)」を使用することです。EMIスクリーンを形成することもまた問題になりますが、一方の端が終端されないTIWのハーフターン層を使ったいくつかの設計では丁寧な絶縁ができます。
入力の大容量蓄電コンデンサも、小型化を阻害する部品の1つです。DCバス電圧の平滑化とAC主電源が途切れ遮断された間の電圧保持エネルギーを供給します。標準的な業務用機器は、115VACまたは230VACの公称入力電圧から、20ms(50Hz主電源の1サイクル)間動作を保持することが要求されます。入力コンデンサが受ける電圧は115VACの例では平均約150Vで、それに20Vの主電源周波数のリップル電圧がともないます。主電源が遮断された場合には、そのコンデンサが放電し、コンバータは低下する電源で20msの間動作を維持する必要があります。実際に、効率75%、5W出力のコンバータの例では約70Vに低下するまで動作可能で、20msの間に必要なエネルギーによるコンデンサのエネルギー損失は以下の式で表すことができます。
式1
この式から18µFのコンデンサが必要で、最大のAC入力に対して定格は400Vのものが必要です。最小なのはアルミ電解コンデンサで高温対応品の選択では約3cm3です。経験則から、多くのフライバック回路において20msの保持時間を得るには、入力範囲が広い場合は最低2µF/Wが必要で、230Vの公称入力であれば1µF/Wが妥当です。これより静電容量が少ないとリップル電圧が大きくなる問題が生じ、電圧が余裕が減少し1サイクルの主電源遮断で出力電圧に落ち込みが生じます。
基板実装型AC/DCコンバータは、高電力製品に近いレベルの導通EMIを発生します。それは、コモンモードノイズが電力の大きさに直接比例しないからで、どの設計にも存在する寄生容量により結合する内部の高いdV/dtにより主に生成されるからです。したがって、単純で低電力な設計においても、ノイズ放射規格に適合するにはコンバータ自体より大きなEMIフィルタが必要になる可能性があります。コントロールICの設計者は、共振または準共振トポロジーによるdV/dtの制御や、規格測定受信機の帯域幅に現れる平均EMIを削減する「周波数ディザリンク」のような技術によって、この問題に取り組んでいます。基板実装型AC/DCコンバータは多くの場合一次側グランド接続がない「クラスⅡ」デバイスですが、コモンモード導通ノイズの経路が提供されている実際のアプリケーションでは、その出力はたいていの場合グランド接続がなされています。一次側と二次側間のYコンデンサは高周波干渉を低減しますが、出力がグランド接続されていない場合の効果は高くなく、危険なAC接触電流を使用者に流す可能性があります。いくつかの家電関連規格では(例:EN 60335)非常に低い静電容量と、1つが故障したときのために2つのYコンデンサを直列接続することが要求されています。2つのコンデンサの設置に関しては、それぞれが小型パッケージの中で完全に安全な沿面距離を端子間で確保することが非常に困難で、多くの場合外付けにしてEMC規格に適合しています。
図2:クラスⅡアプリケーションでは、EMIと安全規格適合のために2つのYコンデンサが必要になることがある
公称277VAC、ピーク305VACから給電される低電力AC/DCコンバータが、一般的なアプリケーションに使用されることが増えています。これは3相115VACシステムの中性線電圧で、しばしば米国やアジアの大規模ビルで利用されます。より高電圧には、対応する広い絶縁と230VACシステムより高い電圧定格の部品が必要になり、より強靭な部品、例えばバルクコンデンサの例では、最低でも450VDC定格のものが必要になります。小型のコンバータでは、これがスペースの問題になります。さらに、480VAC(ピーク525VAC)から、同じ部品で100VACシステムの最低許容電圧85VACまで低下しても動作するといった厳しい要求があります。高電圧と極端な入力範囲は、特に小型、低コスト、高効率が要求仕様の一部である場合、部品へのストレスの考慮と安全な絶縁を困難にします!
時々見落とされる要素は動作標高で、コンバータ内の空間のために、標準的な動作可能な高地は通常2000mまでです。より高い標高では、コンバータがほぼ確実に膨張します。例えば、EN 62368-1(図3)によると、空間は5000mで1.48倍になります(極端に思えるかもしれませんが、世界の8つの首都は標高2000m以上です)。さらに、高地には多くの肺病病院があります。2000m以上を許容することは一般的ですが、空間を小さく設計するという設計課題が加わります。
図3:標高に対する空間および試験電圧倍率(出展:EN 62368-1)
基板実装型AC/DCコンバータは、基板上の他の部品と同じ熱環境で、特別な放熱対応なしに普通に動作することを期待されます。高いリップル電流は高効率を困難にするので、製品設計で重要なことは、可能な限り高い周囲温度で最大電力を得られるように内部温度を制御することです。ケースサイズを削減すると、放熱に有効な面積が少なくなり問題を難しくします。
モジュラーソリューション
RECOM[1]は、小型サイズで、産業グレード規格の低コスト基板実装型AC/DCの設計に挑戦しているメーカーです。製品は1W~30Wで、すべてが少なくても85VAC~264VACで動作します。305VAC対応の5W製品、RA05-K/480は最大525Vで動作します。最大標高5000m対応、動作温度範囲-40℃~+90℃(ディレーティング要)の製品も用意されています。新製品の3W品のサイズは業界をリードする22.5mm×27.94mm×18mmで、20W品でもわずか25.4mm×50.8mm×23mmです。標準の平面壁実装用で独自の円形実装パッケージの3W、18W、30W品があり、3W品はわずか11mmの超低背を特長としています。このラインアップの全製品はEN 60950、EN 62368 ITE安全認証、ほとんどがEN 60335家電認証、また、18Wと30Wの円形タイプは医療認証を取得しており、ワイヤ接続タイプも用意されています。図4はこのラインアップのサマリです。
図4:RECOMの基板実装型AC/DCコンバータ製品のラインアップ
リファレンス
[1] RECOM:
www.recom-power.com
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