ワイヤレス充電アプリケーションの電源設計要件

Wireless charging station with smartphone that displays the battery level
ワイヤレス電力伝送(WPT)アプリケーションには、物理的な接続を使用せずに電源から負荷への電力の伝送が含まれます。これらのアプリケーションでは、通常、誘導結合などの技術を使用して、電磁場を介して電力を伝送します。 このブログでは、WPTアプリケーションで効率的かつ安全な電力伝送を確保する上で、電源がいかに重要な役割を果たすかについて説明します。

Graphical visualization of the components of an inductive charging station
図1:誘導型WPT設計の主なコンポーネント(出典:RECOM)
WPTは、多くのアプリケーションにおいて一般的な選択肢です。その人気はスマートフォンや電動歯ブラシといった、民生用電子機器にまで及びます。さらに 医療分野では、WPTはペースメーカーやインスリンポンプなどの埋め込み型デバイスに電力を供給する上で重要な役割を果たしています。産業部門もWPT技術の恩恵を受けており、電動工具や無人搬送車(AGV)などに内蔵されています。

WPTには、図1に示すように、送信コイルと受信コイルが必要です。電力は、送信機と受信機の間の磁場を使用してワイヤレスで転送されます。

送信側では、DC入力電源は通常、ハーフブリッジまたはフルブリッジトポロジに供給され、DC-ACパワーインバータに電力を供給します。インバータは、LC直列共振タンクを使用して交流磁場を生成し、受信機に電力を送信します。受信側では、直列共振コンポーネントが入力磁場を電流に変換し、ハイパワー整流器がAC電流をDC電圧に変換します。出力レギュレータは、負荷に安定したDC電圧を供給するために使用されます。
Three diagrams that visualize coil misalignments
図2:誘導充電WPT(Qi)システムのコイルの位置ずれとその効率への影響(出典:RECOM)
コイルの構成は、アプリケーションや電力結合のタイプによって大きく異なり、共振型および非共振型の誘導結合が一般的に使用されます。

コンシューマー向けWPT技術は、誘導充電に関する関連業界標準に準拠しています。ワイヤレスパワーコンソーシアム(WPC)のQi(「チー」と発音)システムは高効率ですが、送信コイルと受信コイルの位置合わせが必要です。競合するAirFuel Alliance規格では、調整済みコイルを使用した磁気共鳴電力伝送が採用されており、位置ずれの影響を受けにくく、数メートルまでの長距離をサポートします。

QiシステムとAirFuelシステムには他にも大きな違いがあります。例えば、Qiワイヤレス充電規格の周波数帯は、低電力アプリケーション(5W)では110~205kHz、中電力アプリケーション(最大120W)では80~300kHzです。AirFuel仕様では、6.78MHzというより高い周波数が使用されます。

送信コイルと受信コイルの設計、距離、配置は、WPT設計の効率において重要な役割を果たします。電動歯ブラシなどの最も単純な低電力WPTアプリケーションでは、送信コイルと受信コイルの相対位置は厳密に制御されますが、高電力システムではより大きなばらつきが生じます。

図2は、送信コイルと受信コイルの間のさまざまな位置ずれが効率に与える影響を示しています。

ワイヤレス電力伝送アプリケーションにおける電源の主な要件

安定性と精度。電源は、一定の効率的な電力伝送を保証するために、安定した正確な出力電圧または出力電流を提供する必要があります。変動は、ワイヤレス電力伝送システムの効率と信頼性に影響を与える可能性があります。
変動する負荷への適応性。WPTシステムでは、特に複数のデバイスが同時にワイヤレス充電される場合、負荷が変動する可能性があります。最適なパフォーマンスを維持するには、電源がこうした負荷の変動に適応できる必要があります。
効率と力率。WPTアプリケーションでは、電力伝送中のエネルギー損失を最小限に抑えるために効率が重要です。高効率の電源は、ワイヤレス電力伝送システム全体のパフォーマンスを最大化するのに役立ちます。
安全性への配慮。WPTシステムでは、多くの場合、安全上の理由から、電源とワイヤレス電力伝送コンポーネントの間の絶縁が必要です。絶縁電源は電気的危険を防止し、安全規格への準拠を保証します。
異物検出(FOD)。 硬化、鍵、釘などの金属物体がWPTシステムによって生成される磁場の近くに誤って置かれる可能性があり、それによって潜在的な安全上の危険が生じ、WPTシステムの電気特性が影響を受けます。強磁場は、送信機と受信機の間にある生体に有害な症状を引き起こす可能性もあります。このような意図しない物体を特定し、それらへの電力伝送を回避することは、異物検出(FOD)として知られています。 FODは通常、受信機で受信した電力を計算し、それを送信機に送り返すことによって実現されます。補正係数を適用した後の2つの値の不一致は、電力を吸収する異物によるものと見做され、シャットダウンが引き起こされます。
温度の監視と保護。電源には、特にワイヤレス充電パッドまたはモジュールにおいて、温度監視メカニズムと過熱保護(OTP)が組み込まれている必要があります。標準的な保護機能には、短絡保護(SCP)および過電圧保護(OVP)も含まれている必要があります。
周波数マッチング。共振誘導結合ベースのWPTシステムでは、効率的な電力伝送のために、電源周波数がシステムの共振周波数に適合していなければなりません。周波数マッチングにより、WPT全体のパフォーマンスが向上します。
通信と制御。WPTシステムは通常、通信インターフェイスを使用して、負荷要件やシステムステータスなどの情報を送信機と受信機の間で交換します。これにより、インテリジェントな電源管理と制御が容易になります。Qi受信機は、電力レベル要求の伝達とFOD検出のために振幅偏移変調(ASK)を使用し、Qi送信機は周波数偏移変調(FSK)を使用します。AirFuel規格を満たす共鳴WPTシステムは、一般的なBluetooth Low Energy(BLE)規格から派生したプロトコルを使用します。

送信機と受信機の間の無線通信に加えて、電源にはPMBusなどの有線デジタルインターフェイスも含まれている必要があります。この機能により、制御システムはピーク性能を得るために電源電圧を最適化でき、電源はステータス情報、エラーコード、その他のパラメータを送信できます。

電磁両立性(EMC) 電源は、他の電子機器との干渉を防ぎ、WPTシステム全体の信頼性を確保するために、電磁両立性規格に準拠する必要があります。

ワイヤレス電力伝送アプリケーションに適したRECOM製品

前述のように、WPTの使用に最適な電源は、ラインと負荷の変動の両方に対して適切に調整され、効率的で、絶縁され、保護され(SCP、OVP、OTP)、関連するEMC要件を満たしている必要があります。

RECOMは、これらの要件を満たす数多くのAC/DC電源を提供しています。 例えば、RACM600-Lシリーズは450Wの連続電力(最大800Wピーク)を供給でき、PMBusインターフェイスも備えています。 RACM1200-Vは、ファンレスで最大1000Wの電力を供給し、最大10秒間にわたり1200Wのブースト電力が利用可能で、こちらも同じくPMBusオプションを備えています。カスタム仕様も利用可能です。

まとめ

ワイヤレス電力伝送アプリケーションの電源は、民生用電子機器から産業用アプリケーションに至るまでのさまざまな場面で、シームレスで信頼性の高い電力伝送を実現するため、安定性、効率、安全性、互換性の要件の組み合わせを満たす必要があります。WPT電源の設計上の考慮事項は、ワイヤレス充電技術の導入を進める上で非常に重要です。

RECOMは、この急速に変化する分野について詳しく学びたい方向けに、有益なトレーニング資料を用意しています。私たちのAC/DC 知識の本 には、WPTに適用可能な基本的な物理学と実用的な設計技術に関する多くの情報が掲載されています。 また、RECOM設計エンジニアは、カスタム設計プロジェクトについていつでもご相談に応じます。
  Series
1 AC/DC, 1200.0 W, Single Output, Connector RACM1200-V Series
Focus
  • Up to 1000 Watt fan-less power / 1200W boost
  • Designed and manufactured in europe
  • Efficiency exceeding 90% from 15% load
  • Wide Operating temperature range -40…+80°C
2 AC/DC, 600.0 W, Single Output, Connector/Screw Terminal RACM600-L Series
Focus
  • Up to 450 Watt convection cooled output
  • Up to 800 Watt dynamic load supply
  • 5VSB output (always on)
  • Remote sensing, CTRL ON/OFF, PMBus