DC-DCコンバータは入出力間の絶縁がなくても使用できますが、多くの場合、内部トランスを用いて出力を入力から電気的に(直流的に)分離します。これにより、DC-DCコンバータの用途は非常に広がります。入力に対して変動する出力を持つことで、電気系統のノイズを減らすためにグランドループを遮断することができ、出力極性は自由に選択できます。またもちろん、感電を防ぎ故障によって引き起こされる他の危険性を減らすため、絶縁バリアは重要な安全要素となります。
出力は入力から絶縁されているため、入力側または出力側の「ゼロ」基準電圧の選択も任意です。たとえば図1で示されるように、5V出力の絶縁型DC-DCを使用して、電圧レベルと極性の変更(例:-48V入力から+5Vを出力)、電圧の増加(例:+15V電源から+20Vを出力)または単一電源からのデュアル出力(例:+ 5Vから±5Vを出力)などが可能となります。
図1:絶縁型DC-DCコンバータの用途
絶縁クラスは、絶縁バリアの堅牢性によって異なります。DC-DCコンバータの場合、最も一般的に使用される絶縁クラスは以下のとおりです。
- 機能絶縁 - 出力電圧は絶縁されていますが、感電に対する保護はありません。
- 基礎絶縁 - 絶縁バリアが損傷していない限り、感電から保護されます。
- 付加絶縁 - 基礎絶縁が損傷した場合に感電から保護するために追加して設けられたバリアです。
- 強化絶縁 - 二重の基本絶縁と同等に強化された単一バリアです。
それでは、これらの絶縁クラスはどのようにして実用的なトランス構成に変換されるのでしょうか。
機能絶縁
通常、トランスの一次巻線と二次巻線は相互に重なり、ワイヤラッカーの厚みにより絶縁されています(図2)。低コストで非常にコンパクトなトランスが作れる利点があり、最大4kVのDC絶縁電圧試験に耐えることができますが、試験時間と試験回数は限られます。
図 2: 機能絶縁されたリングコアトランス
機能絶縁コンバータは、一般的にグラウンドループあるいは伝導干渉経路の遮断、または機能グラウンド基準電圧の変更等の、安全性がさほど必要とされないアプリケーションに使われます。これらシステムでは、絶縁障害によって怪我をしたり、機器が重大な損傷を受けたり、あるいはアプリケーションの動作が停止することはありません。絶縁により、干渉に対するセキュリティを追加し信頼性を高めますが、安全性自体には関係ありません。
良い例はCANバスデータ通信システムです。 CANバスの仕様では、バス配線を絶縁する必要性は規定されていませんが、実際には、インターフェイスを絶縁することによりデータ転送に関するエラーや干渉の潜在的な原因を取り除くことができます。バスの両端が絶縁されているので、トランスミッタとレシーバは問題なく異なる接地電位に配置できます。外部電界によって配線内全体に電流が流れる危険性が無いので、差動バストポロジでの電気的干渉は無視できます。これが、絶縁型CANバスシステムが重工業オートメーション工場や製造プロセスでよく使用される理由の一つです。図3は、RECOMのSMD DC-DCコンバータを使用して絶縁バス電力を供給する評価ボードです。[1]。
図 3: 絶縁CANバス評価ボード
基礎絶縁
基礎絶縁クラスでは、システム電圧で定められた一次または二次巻線間の確実な絶縁が必要です(巻線のラッカー絶縁はピンホールが存在する可能性があるため不十分です)。基礎絶縁クラスのトランスでは、入力巻線と出力巻線は互いに重なって巻かれているのではなく、最低限の距離だけ離れているか、または認可された絶縁フィルムなどの物理的なバリアで絶縁される必要があります(図4)。
この方法は、巻線間にテープの層を追加するのに十分なスペースがある、より大型のトランスに使用されます。
図 4: 基礎絶縁されたボビントランス
小型のDC-DCコンバータでは、トランスを大きくしすぎずに基礎絶縁を実現する必要があります。 図5は、巻線を物理的に分離するために分離ブリッジを組み込ん
だトランスです。 さらに、フェライトリングコアはプラスチックコーティングされているため、巻線からも絶縁されています。RECOMは、最大6.4kVDCでテストされたこのタイプのRxxPxxおよびRxxP2xxシリーズをコンパクトなSIP8パッケージ(19.5 x 12.5 x 9.8 mm)で提供しています。
図 5: ブリッジ構造トランス
ポット型コアを使用して基礎絶縁トランスを作る別の方法もあります。この方法では、一つ目の巻線(通常は一次巻線)を巻いたフェライトコアをプラスチックポットに入れ、エポキシで充填します。 ふたを取り付けてから、二つ目の巻線を中央の穴を通してコア全体に巻きます(図6)。絶縁はトランスワイヤーのラッカーに依存していませんが、プラスチックポットおよびエポキシ充填剤によって保証されます。 製造工程では、規定されたシステム電圧での基礎絶縁に対する最低保証要件がエポキシとフタの品質と厚さにより確実に担保されなければなりません。
図 6: ポット型コアトランス構造
RECOMのRP-xxxxシリーズは、コンパクトなSIP7パッケージ(19.6 x 10.2 x 7 mm)で5.2 kV DC絶縁定格を実現するためにこのタイプの構造を使用しています。 製造方法はより複雑になりますが、この「ポット型コア」は、経時劣化が無く安定した絶縁性能を備えた非常にコンパクトな高信頼性トランスです。これによりRECOMのRPシリーズは同社ポートフォリオの中で最も信頼性の高い高絶縁DC-DCコンバータの一つとなり、軍用航空機から高電圧試験装置まで、要求の厳しい多くのアプリケーションで使用されています。
強化絶縁
強化絶縁では、入力巻線と出力巻線はより長い距離、または少なくとも二つの物理的バリヤによって分離されており、それぞれが基礎絶縁定格の要件を満たします(図7)。
図 7: 基礎絶縁層と付加絶縁層を含む強化絶縁トランス構造の例(図の太い黒線部)
ただし、多層絶縁によりトランスはより大きくなり、小型化の可能性は低くなります。 この問題を回避する方法は、強化絶縁の一つである三重絶縁(TIW)トランスワイヤを使用することです。RECOMはこのタイプのワイヤを使用して、4 kVAC/1分の絶縁、2 x MOPP(Measures of Patient Protection)および250VAC動作電圧絶縁を実現し、IEC/EN/UL 60601-1安全規格に医学的に認証されたREM1シリーズDC-DCコンバータをSIP 7パッケージで作成することに成功しました。
図 8: RECOM製REM1医療グレードSIP 7パッケージDC-DCコンバータ
参考
1.
www.recom-power.com
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