DC/DCコンバータは、コンシューマ、IT、産業、輸送用など考えられるほぼ全ての電子機器に使用されていますが、ほとんどの場合システム内に組み込まれており、システム外の予測不可能な電源と環境の変動から十分に保護されています。ただし、輸送の現場では状況が異なります。DC/DCコンバータは多くの場合システムバッテリから直接給電されますが、それは他のデバイスにも給電しスパイク、サージ、ドロップアウトを発生させる可能性があります。また、結露、衝撃、振動、急激な温度変動などにより、輸送現場は過酷な物理的環境になることがあります。さらにその性質上、交通機関は他の車両やラジオ、テレビ、携帯電話基地局からの異なる高出力放射EMCの中を移動します。モジュラーDC/DCコンバータは汎用部品で、最も安価なものでも高性能で安全認証済ですが、上記の要求を全て満たしていますか?これら市場での性能基準を調査すると、一般に特別な設計が必要であることが分かります。
鉄道輸送での異なる規格電圧
鉄道は、規格システム電圧がDC 24〜110Vの間で変動する可能性があるため、DC/DCコンバータにとっては最も要求の厳しいアプリケーションの一つです。EN 50155-2017「鉄道用途 - 車両に使用される電子機器」によると、規格電圧は通常+25%/ -30%の間で変動しますが、時に規格値の60%まで下落し、サージ電圧は140%に達することもあります。 図1はこのような電圧範囲の要約です。規格によれば、最大1秒のサージによるパフォーマンス劣化は許容範囲ですが、規定レベルで最大100ミリ秒までのサージあるいはディップでシステムの「機能低下」は許されません。ただし、どの程度のパフォーマンス劣化が後段の機器に許容されるかを把握することは難しいので、実際にはDC/DCコンバータは140%の最高サージレベルで仕様通りに機能する必要があります。
図1.レールアプリケーション用のEN 50155-2017に準拠した電源電圧範囲
図1はまた、DC/DCコンバータの「標準」4:1入力範囲及びそれぞれが特定のレール要件をどのようにカバーするかを図示しています。ただし、すべての電圧範囲をカバーする「理想的な」コンバータは、図にあるような10:1以上の入力範囲が必要になります。
いくつかの鉄道用途では、依然としてRIA 12(「20msで規格値の3.5倍までのサージ耐性」を規定した古い規格)に準拠する必要があります。 110Vシステムの場合、これはピーク385Vを意味し、実際問題としてDC/DCコンバータの入力範囲内でカバーすること、または過渡サプレッサで吸収することは非常に困難です。電源インピーダンスがわずか0.2オームであるため、160Vでクランプすると過渡サプレッサで消費されるピーク電力は180kWになり、制御不能に陥ります。サージに対処するためにさまざまな方法が考案されていますが、RECOM [1]が推奨する最も効率的な方法は、直列MOSFETを使って電源を「定電圧化」し、時限スイッチオフ機能を追加することです。これによりMOSFET内の電力消失はサージが続いた場合でも規格値を超えることはありません。このソリューションは、最大300Wの連続負荷を処理する既製のサージストッパモジュールとして使用すること、あるいはディスクリート部品として組み込むこともできます。図2
図2:RIA 12アプリケーション用の「サージストッパー」概要(出典 RECOM)
鉄道用途のDC/DCコンバータも、EN 61000-4-xシリーズ規格で定義されているように高速過渡過電圧の要求を満たす必要があります。 これらは比較的低エネルギーであるため、単純なLCフィルタと過渡サプレッサを使うことができます。 EN 50155では、3つのクラスS1、S2、およびS3で完全な電源遮断が規定されています。最悪のケースでは、規定入力から20msの間電源が遮断された場合、性能低下は許容されません。 これには通常、DC/DCコンバータの外部にホールドアップ容量が必要です。
鉄道車両機器は、通常、他用途で見られるより大きな衝撃および振動レベルにさらされます。 規格EN 61373は、カテゴリ3(車軸取り付け)からカテゴリ1(車体取り付け)までのいくつかのレベルを定義しています。全ての場合において、DC/DCコンバーターにはPCBのコンフォーマルコーティングによる耐久性と、機械的ストレスを最小限に抑え、湿気から保護するためのカプセル化が必要です。
RECOMの一連のDC/DCコンバータと、その新しい買収先であるPower Control Systems [2]は、8WのSMDおよびDIP-24製品から、全ての標準規格をカバーする240W超ワイド12:1入力の「ブリックパッケージ」製品まで、多くのレール要件を満たすEN 50155認証部品を提供しています。同社はまた、EN 50155およびRIA 12準拠のフィルタリングを持ったリファレンスデザイン[3]も提供しています。 AC入力部品は、線路側のアプリケーション向けに最大10kWの三相部品も用意されています。
他の産業用輸送用途でも鉄道と同様の要求
広入力範囲のバッテリー電源は、電動フォークリフト、ハイブリッド車、無停電電源システムなどにも使われます。規定バッテリー電圧は通常12V〜48Vですが、12Vシステムでは、充電電圧とヘビーデューティモータの切断によるサージ(文字通り「ロードダンプ」)は、最大で42V以上に上昇することがあります(図3)。48Vシステムでも相応に電圧は高くなりますが、「安全な」最大電圧として60Vが規定されるため、図2のサージストッパのような回路でDC/DC入力を最大60Vにクランプすることができます。このように安全な超低電圧においては、DC/DC絶縁システムはより高いレベルの安全認証を要求されることなく「機能的」とされます。「コールドクランキング」条件下の低い入力電圧では、やはり電圧範囲が広いDC/DCコンバータが優れたソリューションとなります。ただし、最終用途やトラックの位置が不明であり、使用される環境もざまざまで鉄道よりコントロールが難しいので、信頼性の高い動作のためには高耐久性の部品を使用することをお勧めします。今や電子機器が農業用およびあらゆる種類の大型産業用車両に採用されているため、広い入力範囲と堅牢な構造に対する要求は同様に必要となります。
図3:12V自動車用途で見られるサージ電圧(LV124より)
自動車用電源電圧の明確な定義
自動車では、2013年にドイツの自動車メーカーによって策定されたLV124(12Vシステム用の一般的な仕様)で供給電圧が非常に明確に定義されています。図3に示されている電圧は標準的なもので、4:1より広い入力範囲で動作できるコンバータが必要です。それぞれのメーカーは独自の解釈と要求がありますが、ISO 7637-2も高電圧トランジェントに適用できます。負のトランジェントは、正の値とともに2msの間は–150Vまで、たとえば150nsの間は+150Vまで印加することができます。負のパルスは、並列の誘導性負荷の電力が遮断されていることから生じます。トランジェントは比較的低いエネルギーを持っているので、LCフィルタとトランジェントサプレッサで減衰させることができます。
2021年以降に新たに登録された自動車のCO2排出量が1km当たり95g未満と規制されたことにより、ハイブリッド車用の48V DCシステムへの関心が高まっています。それまでに全ての自動車を電気自動車に切り替えることは不可能なため、大型車にとってはハイブリッドが唯一の解となります。12Vと48Vのシステム電圧を持つ自動車では、必要に応じて48Vのバッテリーで牽引力を高め、電気走行時にオイルポンプやウォーターポンプなどの周辺機器に効率的に電力供給することでガソリン消費量とCO2排出量を改善できます。
48Vシステムでは、12Vシステムと同様、不足電圧および過電圧のパーセンテージ範囲がありますが、高価な絶縁システムを使わないために、電圧を安全な60Vレベル以下に保つことをお勧めします。 VDA 320規格はそのレベルを定義しています(図4)。
図4:自動車用48Vシステム電圧レベル
モジュラーDC/DCコンバータがこれらのシステムで使用される場合、インフォテインメントまたはナビゲーション用途では、4:1(18 - 72V)の入力範囲で十分かもしれませんが、使われる部品は衝撃・振動仕様、および極寒の車中から熱帯の酷暑までに耐えうる温度仕様を満たさなければなりません。
モジュラーDC/DCはトランスポート互換仕様
輸送機器におけるDC/DCコンバータ要件は、市場で長い経験を持つRECOMやその子会社PCSなどの既製ソリューションで容易に満たすことができます。 同社の広い製品範囲には、鉄道用途向けのEN 50155認証を取得した超ワイド12:1入力部品、自動車および産業用車両向けの堅牢な製品なども含まれます。これら要求の厳しい用途向け製品には、徹底した設計検証を通じて長寿命と最適性能が保証されています。製品テストは、フル性能特性評価、HALT、温度サイクル、高温ソークなどが行われます。
参考
[1] RECOM
www.recom-power.com
[2] Power Control Systems
www.powercontrolsystems.com
[3] RIA 12 ‘Surge stopper’ and EMI filter
R-REF04-RIA12
RECOM: We Power your Products